5S活動から現場活動に発展させるヒント集です

あなた一人で手抜きでできる楽々改善。楽に楽しく現場改善しましょう! 楽々改善舎
1人で学ぶ
ものづくり品質を楽に楽しく向上させる方法
【5】品質安定に効果のある改善手法
1.品質安定のヒント
本編で、非常に高い品質と信頼性を実現されている「トヨタ生産方式(TPS)」の品質の基本的な考え方について説明しました。TPSでは長期間にわたり多くの改善手法が開発されています。品質向上のために役に立つ手法としては、品質は工程でつくり込む、なぜ5回真因を追求、目で見る管理、ポカヨケなどがあります。標準作業は、主に生産性向上に有効な手法ですが品質安定にも役に立つ手法なので、これも含めて5つの手法を解説します。

品質向上以外の手法としては、TPSの代名詞とも言える「かんばん」があります。これは、TPSの2本柱の内のジャストインタイムを実現するための手法です。トヨタでは、これらの手法を継続的に実践することにより、高い生産性と高品質を実現されています。トヨタで実践されているやり方をそのまま実施するより、それぞれの会社に合った進め方にアレンジすると成果につなげることができます。そのため、それぞれの手法の目的と考え方を理解することが重要です。

2. なぜ5回真因を追求する
不良や機械のトラブルが発生した時、直感で対策を打ったために、なかなか対策出来なかったことを経験したことがありませんか? 現場の担当者は毎日見ているので、分かっているつもりだったかも知れませんが、対策がはずれたのです。何度もこのような対応を行っているとモグラたたきになってしまい、トラブル対策に時間がかかってしまいます。

TPSでは問題が発生すると、なぜ、なぜと5回繰り返して真の原因を追求し、問題を解決します。一つの問題に5回のなぜをぶつけるのは、かなり難しい作業です。トヨタでは、なぜなぜと5回繰り返せば、ほぼ真の原因が見つかることを経験から知っているのです。なぜ5回で真因を追求した事例を示します。

◆機械の故障の発生を、なぜ5回で真因を追求
1.なぜ、機械が故障したのか?
  ⇒レバーがスムーズに動かなくなった
2.なぜ、レバーがスムーズに動かないのか?
  ⇒レバーの軸受部が焼き付いた
3.なぜ、軸受部が焼き付いたのか?
  ⇒注油がされてなかった
4.なぜ、注油しなかったのか?
  ⇒定期点検項目に入っていなかった
5.なぜ、定期点検項目に入っていなかったのか?
  ⇒軸受部の構造を理解してなかった

機械の故障の発生に関して、なぜ5回で真因を追求したものです。この事例では、真因は教育にあることが分かりました。一般的に、機械の故障状況を調べると、油切れであることはすぐわかります。その対策として、注油をすぐに行うことは容易です。しかし、すぐに同じ現象の故障が発生してしまうのです。このケースでは、故障個所が定期点検項目に入っていないので、時間が経過すると故障個所の注油を忘れてしまい、同じ故障が再発してしまうのです。

真の対策は注油を定期点検項目に入れることなのです。さらに定期点検項目に入っていなかったのは、定期点検項目の制定者の教育が不十分であったことまで追求できれば、根本解決が実現できます。対策として、メカ構造の教育を行って、機械のどの個所に注油が必要であることを理解することが重要です。それは、他にも定期点検項目から漏れている箇所があるかも知れないからです。時間はかかりますが、しっかりとメカ構造の教育を行うことが、この故障を撲滅する真の対策になるのです。

不良が発生した、機械が故障したなど、様々なトラブルが発生するでしょう。その際、じっくりとなぜ5回を行い、真の原因を対策することが重要なのです。場当たり的な対策ばかり行っていると、結局、機械停止と不良のムダを発生することになります。「現場現物」という言葉は知られているので、問題発生時に現場に行って問題の現物は見ることは行います。しかし、もっとも重要な「現実」、つまり、なぜ問題が起きたのかという点は、あまり見ないことが多いのです。誰でも良くないことは見たくないものですが、しっかりと問題点に向かって、なぜ発生したのかを追求しなければ、根本解決はできません。

TPSでは「現場現実」と呼び、もっとも重要なのは現実をしっかり見ることだと教えられています。この現実を見る方法が「なぜ5回、真因を追求する」ということです。問題が発生した時は、現場で現物を見ながら、しっかりとなぜ5回で現実を見つめてください。必ず解決に向かいます。

3. 目で見る管理とは?
TPSのイメージしにくい言葉の一つに「アンドン」があります。「アンドン」とは「目で見る管理」の代表で、現場に設置されたラインの状態を示す表示板のことです。イメージしやすい例では、機械に設置されたシグナルタワーやパトライトのことです。運転や停止などの機械の状態をひと目で見えるようにしたものです。目で見る管理は、TPSの二本柱の一つである自働化を実現するための非常に重要な手法の一つです。機械のトラブル、作業の遅れや誤り、品質の異常などの生産ラインの問題をリアルタイムで見えるようにすることです。問題が発生すればすぐにラインを停め、関係者が問題の発生した場所に集まり短時間で復旧を行うのです。

トヨタの工場を見学すると、非常に大きな表示板が工場の天井からぶら下げられています。この表示板がアンドンで、ラインを示す数字や部外者には分からない記号がひしめきあっています。見学している間にも、アンドンが点灯するのを見かけることがあります。スピーカーから大きな音声が出る場合もあります。このアンドンが点灯すると、一大事が発生した印象を受ける位、現場メンバーがテキパキと対応しています。緊張感がただよう現場なのです。すぐに対策を終えラインが動きはじめる様子は、強い緊迫感を感じます。目で見る管理を行う大きな表示板が、ライン全ての指揮を行っているのです。

目で見る管理と似た言葉に、「見える化」があります。見える化は、ものづくりだけでなく、営業や経営といった企業活動においてデータから得られる問題を客観的に把握しやすい指標、数表、グラフなどにして組織に共通認識できるようにするなど広く活用されています。ものづくりの管理状態を「見える化」することが「目で見る管理」であると言えるでしょう。生産ラインや機械の稼働状態だけでなく、生産の遅れ進みを示す生産進捗の見える化も重要です。

あらかじめ決めた時間毎に、計画数量に対して実績の生産数量と差異を記入することにより、工程の遅れ進みを知ることが出来るものです。生産のスタイルにより、生産品種を記入したり、時間の割り振りを変えたり、色々なパターンがあります。同様の内容を表示灯やパソコンに自動で表示できる機器も販売されています。生産が遅れている場合には、不良が発生しやすい傾向にあるため注意が必要です。安定して生産することが極めて重要であり、ラインリーダーは常にライン状態に注意しなければなりません。

品質状況の見える化も重要です。一般的には、QC7つ道具の中のグラフや管理図を活用します。さらに本編で紹介した「さらし首」も見える化の一つです。テーブルに不良現品を並べ、品質状況を一目で分かるようにしたものです。これは、「不良品は現行犯で捕える」という考え方がベースになっています。不良が発生した時点で不良を捕え、対策まで行います。作業者で手に負えない時は、上司が応援して課題を解決します。非常に奥深いのが、「目で見る管理」なのです。

4. ポカヨケとは?
TPSでは、良い品質のものをつくることは何よりも優先する大前提であると考えられています。しかし、人間は必ず失敗をするため、「ポカヨケ」を活用しています。「ポカヨケ」とは、人が注意していなくても間違いをしないことです。ポカヨケの身近な事例としては、USBメモリーが分かりやすいです。USBメモリーの方向性により、逆の方向には差し込めないようになっていることです。

トヨタのラインには、非常に多くのポカヨケが組み込まれているそうです。例えば、
・方向性のある治具を間違った方向には取り付けらないようにする
・自動検査を行う場合、不良の場合はロックがかかり取り出せない
・作業忘れがあれば、次の工程がはじまらない
などです。現場のメンバーが、現場改善で新たなポカヨケを考え、実際に使えるようにしているそうです。

自動車はドライバーの安全に大きな影響があるため、ここまでやるかという位の品質のつくり込みを行っています。この考え方と手法は、どんな業種にも展開が可能です。ポカヨケは簡単な工夫で実現できるため、応用しやすいでしょう。

5. 品質の安定には標準作業が重要
TPSの中で、もっとも有効な考え方の一つに「標準作業」があります。標準作業は生産性向上の手法ですが、品質の安定にも極めて有効です。5S活動や現場改善、そしてQC活動を行う時には、この標準作業を決めておかないと、堂々巡りになってしまうことがあります。標準作業とは、タクトタイム、作業順序、標準手持ちの3つを決めることです。

「タクトタイム」とは、製品1個を何分何秒でつくらなければならないかを示し、お客様が決める数字です。タクトタイムに対して、実際に生産している速さを「サイクルタイム」と呼びます。タクトタイム=サイクルタイムが理想ですが、若干の余裕がどうしても必要になるため、サイクルタイムの方が少し短く設定されていることが多いです。サイクルタイムを守って生産することが重要です。特にハンドによる組立作業の場合、作業者によるばらつきが発生しやすいため、作業者が変わっても同じ時間で組み立てを行えるように改善を行う必要があります。

「作業順序」は、作業を行う手順のことです。右手と左手の作業内容を明確にした上で、個々の動作を○.○秒で行うのかを決めます。特に目視検査は人によるばらつきが出やすいため、目の軌跡や目を動かすスピードも決めることが重要です。例えば、秒速10㎝の速さで、製品の端から端までを2往復で視線を移動させると決めます。誰が行っても、同じ手順で同じ時間で、出来るように決めるのです。

「標準手持ち」は、TPS独自の用語で、工程内の仕掛品のことです。手待ちではなく、「てもち」と読みます。工程のどこに何個までの仕掛品を置いて良いのかを決めるのです。標準手持ちが少なくなっている状態や、決められた数量よりも多くなっていると、生産に異常があると判断します。

筆者は、この3項目を徹底的に遵守することによりゼロディフェクトを達成した経験があります。セル生産ライン(U字ライン)にて徹底的に順守することにより、3か月間、不良を全く生産しないゼロディフェクトのラインが達成できました。セル生産ラインの本来の目的として、多品種少量生産化に対応するため少ない人数での生産を目指したところ、標準作業化の徹底により品質向上も実現できたのです。標準作業を行うことにより作業にリズムが生まれ、安定して生産を行うことができるようになったためだと分析しています。

6. 標準作業の見える化の方法
TPSでは、タクトタイム、作業順序、標準手持ちを、それぞれ「標準作業組合せ票」「標準作業票」「作業要領書」という独自のワークシートを用いて分かりやすくまとめます。TPS独特のフォーマットになっているので、これらを使う必要はありませんが、この3項目の内容を誰でも分かるように「見える化」することが重要です。すでに使用している作業指図書や作業指導書などのワークシートに、3つの内容が分かるように追記すれば良いのです。

特に作業手順と作業時間を示す標準作業組合せ票が重要です。縦軸に作業内容を示し、右側のグラフに作業時間や機械の運転時間を示します。TPSのルールでは、作業者の実作業を実線、歩行は波線、機械の運転は破線で書くように決められています。タクトタイムは赤の実線、サイクルタイムは黒の実線を縦にひきます。この組合せとは、作業者の作業と機械の運転の組み合わせを意味し、それぞれのタイミングが一目で分かるように工夫されています。つまりの作業と機械運転の両方を停めないようにすることが重要なのです。

しかし、標準作業組合せ票を作成しようとすると、作業手順や作業時間がはっきり決まっていないことに気が付くでしょう。その場合は、標準的な作業者に作業を行ってもらい、例えば「部品を左手で取る」という具体的な動作にまで分解を行った上で作業手順を明確にします。作業時間の分析には、ビデオやデジカメ、スマホを用いて動画を撮影すると簡単に行えます。

動画を分析すると、材料を取り損なったり、工具を落としたりするなどのイレギュラー動作を見つけることがあります。これらの動作の中に、品質異常の原因が潜んでいます。決して作業者を叱るのではなく、どうして落としたのかを「なぜ5回、真因を追求する」手法を用いて、分析することが重要です。工具を置く姿勢が悪いケースや、材料を置いている位置が悪いこともあります。標準作業を決める前に、これらの問題を解決することが重要です。

TPSでは現状の作業を明確にすることを「おもて(表)化する」といいます。その現状の作業にムダや問題があれば、ムダを排除し問題を解決した上で、その作業手順と時間を標準作業にします。標準作業を決めると、忠実に守って生産を行います。しかし、標準作業に慣れてくると、標準作業の中にもムダややりにくい動作があることが分かってきます。そこで再び、おもて化を行ってムダな動作をはっきりさせ、作業改善によりやりやすい作業にします。その改善された作業を、新しい標準作業にするのです。

このようにTPSでは標準作業を決めても、標準の中にもムダや問題がないか調べ、ムダや問題をなくす改善を行います。標準作業もどんどん改善を行い、ムダのない新しい標準作業を決めるのです。標準作業は一度設定したら変えてはいけないものではなく、TPSでは変わらないのが悪であると考えられています。標準作業をしっかり決めて生産を行いながら、常に改善を行い標準作業の改訂を行うことが重要なのです。この繰り返しを継続的に行うことにより、トヨタ自動車では高い生産性と品質を維持しているのです。この考え方と手法は、どんな業種にも展開が可能です。

前ページへ 目次へ 次ページへ
©2016 RAKURAKUKAIZENSYA