5S活動から現場活動に発展させるヒント集です

あなた一人で手抜きでできる楽々改善。楽に楽しく現場改善しましょう! 楽々改善舎
1人で学ぶ
ものづくり品質を楽に楽しく向上させる方法
【3】トヨタ生産方式での品質の考え方
1.自働化とは?
トヨタ生産方式とは、トヨタ自動車が1945年ごろから継続して改善を続けている生産方式です。トヨタ生産方式の英訳はトヨタ・プロダクション・システムであり、略してTPSと呼びます。徹底したムダの排除を行うTPSは生産性向上のツールであるイメージが強いのですが、品質を向上するための考え方も充実しています。TPSは二本柱として、ジャストインタイムと自働化にまとめられています。この自働化が、品質向上に有効な考え方なのです。

自働化といっても、オートマチックの自動化ではありません。トヨタが生み出した単語で、「にんべん」が付いているので「にんべん」のついた自働化とも言います。正確には「機械設備の異常や、品質の異常、作業遅れなど何らかの異常が生じたら、機械設備が自ら異常を検知し自動停止するようする、または、作業者自身が停止スイッチを押してラインを止められるようにすること」を指します。機械はスイッチを押すと継続的に生産するため、調子が悪くなると大量の不良品を生産する結果を生じます。朝、工場に行くと不良品の山という状態が発生することになります。

機械に異常を検出する機能がないため、不良品が大量発生するのです。つまり、自働化のねらいは不良品を作らないことにあります。「品質は工程でつくり込む」というトヨタの品質の考え方の根幹をなすものです。機械だけでなく、組立工程では人の作業についても、作業者自らがラインを停める機能があります。トヨタがラインを停めることはありえないと思われているかも知れませんが、工場見学に行くとちょくちょくラインが停まるのを目にします。ラインが停まるのではなくて、積極的にラインを停めているのです。

組立作業を行うエリアには「紐スイッチ」という特殊なスイッチが設置されています。紐のついたスイッチで、作業者が紐を引っ張ると、コンベヤが停まるのです。品質異常の発生、作業の遅れ、部品の異常など、作業者が判断して紐スイッチを作動させると、アンドンという工場の天井に設置された大型の表示器に異常発生が表示されます。それを見たラインの上司がすぐに現場に行き、異常を処置してラインを稼働させます。異常が発生したら異常を解決してからでないと、ラインを動かさないのです。

自働化を実現するのは簡単ではありません。トヨタでは、機械を購入しても異常を検出する機能がなければ、異常検出機能を追加した後、生産に投入するそうです。アンドンに異常が表示されても、問題解決できなければラインは停まったままになります。そのため、何十工程も作業ができるベテランが現場におられるそうです。トヨタでは莫大の投資と計画的な人材育成を行って、自働化を実現しているのです。

2.品質の作り込み
TPSでは、品質を極めて重要に考えられていますが、「検査は付加価値を生まない」とも教えられています。一見、矛盾するのでが、ひと言でいうと「検査をしないで品質を確保する」ことなのです。正確には、完成品をまとめておいてオフラインで検査担当が検査をすることが、付加価値を生まないということです。不良品が見つかると完成品をばらして手直しが必要になり、大きな工数がかかってしまいます。

私が勤務していた会社では、この完成品の検査を行っていました。生産していたのが小さな部品だったせいもあるのですが、完成検査と称して良品と不良品を選別していました。選別された不良品は、ほとんどが廃棄されるのです。実にもったいないことです。不良品を調べると、すでに先頭工程で不良になったものもありました。不良品なのに全ての工程を通るため、材料費とほとんどの付加価値が廃棄されることになります。

TPSでは、「品質は工程でつくり込む」ことを徹底しています。多くの工程で大勢の作業者が自動車の組み立てを行っており、そのライン作業者全員が検査を行うということです。もし、ある工程で異常が発生するとラインを停めて、対策が完了するまで後工程に流さないのです。トヨタのラインは停まらないというイメージですが、異常が発生すれば積極的に停める「ストップライン」なのです。

これは、「不良品は現行犯で捕える」という考え方がベースになっています。不良が発生した時点で不良を捕え、対策まで行います。作業者で手に負えない時は、上司が応援して課題を解決します。もちろん、ラインの最終工程に検査工程はありますが、実際に自動車を動かして行う機能検査を重点的に行っています。自動車用の部品製造では、不良品を組み込むと重大なトラブルを発生させる原因となるため、「さらし首」と呼ばれるテーブルに並べ、品質向上を徹底しているそうです。

3.良い品質を安全に作る
TPSでは、「良い品質のものをつくることは何よりも優先する大前提」であると考えられています。さらに品質より優先すべきものが「安全」です。「安全はすべてに優先する」ことを徹底しています。品質の向上を目指すために、作業者に無理な作業を強いるのでは本末転倒です。そのため、トヨタでは人間は必ず失敗をするものだと考え、「ポカヨケ」を活用しています。「ポカヨケ」とは、人が注意していなくても、間違いをしないためのしかけを指します。トヨタのラインには、非常に多くのポカヨケが組み込まれているそうです。

ポカヨケ例としては、
方向性のある治具を間違った方向には取り付けらないようにする
自動検査を行う場合、不良の場合はロックがかかり取り出せない
作業忘れがあれば、次の工程がはじまらない
などがあります。現場のメンバーが、現場改善で新たなポカヨケを考え、実際に使えるようにしているそうです。

自動車はドライバーの安全に大きな影響があるため、ここまでやるかという位の品質のつくり込みを行っています。この考え方と手法は、どんな業種にも展開が可能です。品質は最終検査だけに頼るのではなく、品質のつくり込みという考え方が重要です。つまり検査だけでなく、標準作業で品質を確保することも重要なのです。標準作業とは、誰が行っても同じ手順で同じ時間で行うことです。簡単に聞こえますが、大きなパワーと根気が必要な活動を必要とします。標準作業を正しく機能させ、適切に検査を行うことができれば、不良をつくらない、いわゆる「ゼロディフェクト」の実現に近づけることができます。不良が発生すると直ちに手直しを行って、良品だけを次工程に流せるように徹底することです。多品種少量生産の時代には、極めて有効な生産方式であると確信しています。

どうすれば、不良を工程外に出さない、さらに、不良をつくらないレベルが実現できるのでしょうか。少しでも少ないパワーで、効果の出せる品質向上の方法が重要なのです。

前ページへ 目次へ 次ページへ
©2016 RAKURAKUKAIZENSYA