生産性向上のための改善を研究する現場改善コーチです

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生産性向上を楽に楽しく実現する改善を行う研究庵
日本の会社の生産性についてじっくりと考えてみたいと思います
会社の本業を徹底しながら、ムダを価値に変える活動を継続的に行うことにより、生産性向上が実現できると考えています。
コロナが収束するポスト・コロナのタイミングが、企業文化を大きく変え、生産性向上を実現する大きなチャンスだと考えています。
この機会に、会社の生産性について一緒に考えましょう。
まえがき 新型コロナ・ウイルスに学ぶ
新型コロナ・ウイルスが全世界に猛威をふるいました。こんなにも長い間、外出自粛になるとは夢にも思いませんでした。経済も停滞し、被害を受けなかった会社はないでしょう。

しばらくして、経済活動が再開しはじめましたが、日本は完全に遅れたと感じました。世界各国でのコロナの収束に、大きなバラツキが生じたのです。この差がどこから発生したのかでしょうか?

バラツキの差の一つに、生産性に対する考え方や行動の違いがあるような感じがします。日本は、みんなで頑張って生産性を向上してきた国です。コロナにより学校や会社にも行けなくなり、頑張ることができなくなったのです。あっという間に、何十年もかけて築き上げてきた日本式生産方式が機能しなくなったのではないでしょうか?

特に、役所の動きに時間がかかりすぎのように感じます。その要因が、今まで、あたりまえで対処したこと、ムダがたくさんある煩雑な業務にあると私は考えています。反対に、常にマイペースで変化に対応してきた国の方が、素早く有効な対策を行い、早々にコロナに勝利宣言を出していると感じます。日本風の頑張るだけでは、変化対応ができなかったのです。しかも、非常事態なのに、給付金の申請すらも、従来の煩雑な手順なのです。

ポスト・コロナの活動が、非常に重要であると思います。生産性向上の活動を行うには、ダメージを受けた今が最適であると考えています。コロナが教えてくれたことを分析して、今まで通りでない、ムダがないやり方を考えていきたいと思います。
第1話 日本の生産性は?
日本人は一生懸命に働いているイメージですが、労働生産性では世界21位で、イタリアやスペインにも負けています。イタリア人と聞くと、シエスタ(午睡)とバカンス(長期休暇)という印象を私は持ちます。イタリアに限らず、ヨーロッパに行くと、日曜日はマーケットもレストランも休みのところが多いです。

それに対して、日本では、少しは減っているようですが、24時間営業なのです。会社の労働時間も長い。完全週休二日制も4割弱と聞きます。今回のコロナで自粛要請があり24時間営業がなくなりました。しかし、何か困ったことがあったでしょうか?

何か間違っている感じがします。その要因は、「高度成長のあたりまえが、今でも、あたりまえ=思い込みになっている」ことだと考えています。
「高度成長のあたりまえ」は、次のようなことだと思います。

(1)頑張ればなんとかなる
(2)お客様は神様
(3)断ると仕事が来なくなる

ヨーロッパを旅行していると、この3つのことがらは微塵も感じないと思います。しかし、日本より高い生産性を維持しているのです。日本では、今でも、朝早くから夜遅くまで働いている人を評価する風潮が残っています。働きの評価基準が、成果ではなくて時間なのです。これでは、生産性が向上するはずがありません。

どうすれば良いのでしょうか? やりがいの持てる生産性向上の方法を考えていきたいと思っています。生産性を上げることにより、会社が存続できる可能性が上がります。優れた会社には、末永く継続して欲しいのです。
第2話 生産性を上げるとどうなる?
現在の多くの会社の評価基準は、増収増益だと思います。でも、本当にそうでしょうか? 会社にとって利益は必要です。会社の継続に不可欠だからです。

令和の望ましい会社の評価基準は、減収増益であると私は考えています。減収まででなくても、売り上げは横ばいが望ましいと考えます。給与や物価は少しずつでも上がっていきます。販売単価も下がる可能性があります。横ばいでも、生産数の増加が必要です。

現在の環境下で増収を狙うと、どうしても海外展開が必要になります。私が勤めていた会社もインド展開をスタートし、ギョッとしたことを思い出します。海外展開は悪い訳ではありませんが、本当に日本のためになるのでしょうか? その国にある会社のためにも、商売を荒らすのは良くないことだと思います。

増益しようとすれば、必ず、生産性を向上させる必要があります。生産に要する原価を下げる必要があるからです。会社が生産性を上げることにより、雇用を確保し、継続的に営業ができるのです。反対に、生産性を上げない会社は、令和の時代を乗り切ることは困難だと思います。これだけ大きな変化が次々に起こる令和の時代に、昭和や平成のやり方では、絶対に乗り切ることはできないのです。特に、高度成長期の価値観ややり方は、会社にとって猛毒になると考えます。

生産性が上がらない要因の一つに、海外進出の失敗もあると感じています。国内の需要が頭打ちなので、販売拡大のために多くの会社が海外進出しました。しかし、利益をしっかりと上げている会社は少ないのではないでしょうか? ゆるやかに国内回帰が進んでいるのが、その結果だと考えています。海外の工場を縮小または閉鎖して、国内の工場に生産移転することが効果大です。もちろん、国内では深刻な人材不足の問題があります。つまり、生産性向上は極めて重要なのです。

会社にとって、もっとも重要なのは人です。しかし、現在の学校教育では専門技術だけでなく働くという意識付けすらできないのが実情です。入社しても、会社がもたもたしていると、やめてしまいます。「最近の人はすぐにやめる」のではなくて、「生産性の低い会社は、大切な人を辞めさせている」と考えるべきです。

それでは、どうすれば良いのでしょうか? 考えていきたいと思います。
第3話 継続できる会社とは?
私は毎回のセミナーで、「令和は何年続くでしょうか?」と問いかけています。でも、あまり反応がありません。あまり考えていないようです。

昭和は64年、平成は31年でした。平成の天皇が譲位されたのは85歳の時、令和の天皇は1960年のお生まれで、59歳で即位されています。今の天皇は、平成の天皇より5歳ほど遅くに即位されていることになります。令和も、ほぼ平成と同じくらいでしょうか?

では、令和を30年と予測しましょう。30年間、継続できる会社の姿とは、どんなものでしょうか? 私が接した会社の中で、これだと思った姿を思いつくままにイメージしてみました。

・本業に徹底しながら、ムダを価値に変える活動を継続的に行うことにより、生産性向上が実現する。

・固有技術を磨きながら、5S活動や現場改善を小集団活動で行うことにより、管理技術力が向上し、変化に対応できるようになる。

・現場のモチベーションを向上することにより、労働時間を短縮しつつ、賃金を引き上げることができる。

・海外からの国内回帰や同業の廃業により販売を確保することにより、利益を確実に上げることができる。

・タイミングよく設備や建屋に投資を行い、固有技術を不連続的に向上させることで、受注範囲を拡大している。

・新しい人員の確保は難しいが、一人ひとりの生産性を向上することで、生産販売に対応できている。

・会社独特の取り組みや現場の改善活動が口コミで広がり、学生にも評判になりつつあり、志望者が増えてきている。

会社独特の取り組みについては、「踊る町工場」や「遊ぶ鉄工所」(いずれもダイヤモンド社)に、アッと驚く内容が紹介されています。両社ともに古い業界の会社ですが、変化がもっとも重要であることに気がついて、すでに実践されているのです。

特に、変化対応力の向上や現場のモチベーションについて、考えていきたいと思います。これらが、生産性を上げるために、もっとも重要だからです。
第4話 生産性を上げるためには
製造業だけでなくサービス業などの非製造業であっても、会社として生産性を上げるためには、どんなことが必要でしょうか? 私が考える3つの重要な内容について考えます。

1.大量に眠っているムダを価値に変える
2.喜ばれないサービスをしない
3.都市伝説に惑わされない

1のムダについて、「ウチの会社にはムダはない」と言われる会社にも、大量のムダがあります。ムダと聞くと、ムダなモノを想像されたのではありませんか? モノだけでしょうか? 「もったいないのでモノを捨てられない」とよく聞きますが、そうではないと思います。私は、ムダな空間やムダな時間の方がもっと深刻だと考えています。

日本のもったいない文化は良いと思います。お金を出して買ったモノだから、使わなくなっても、もったいないから捨てられないという人が多いと思います。でも、モノだけでない、いえ、モノよりも大切なもったいないがあると、解釈を変える必要があります。

使わないモノのために、大事な空間を占有していませんか? 使わないモノのためにムダな作業が、発生していませんか? ムダな作業とは、例えば、選ぶ、さがす、取りに行くなどの価値を生まない作業のことです。時間は二度と戻ってきません。何がもったいないのか、よく考えることが重要です。

2のサービスについて、喜ばれないサービスは無いと思いますが、ほんの僅かな人だけが喜ぶサービスよりも、多くの人に喜んでもらえる方が良いに決まっています。たくさんの人が喜んでくれるサービスとは何か、正しく考えることが重要です。私が考える過剰なサービスとして、次のようなサービスがあります。

・24時間営業は必要でしょうか?
・機器の機能は多すぎませんか?
・キレイな包装や梱包は必要でしょうか?

ヒントは欧米にありそうです。ヨーロッパのスーパーは、日曜日は休みです。袋には入れてくれません。シンプルな家電が安く販売されています。欧米の人々は、困っているでしょうか?
第5話 大量に眠っているムダとは?
大量に眠っているムダとは何でしょうか? 毎日、ムダを見ているので、なかなか正体が分からないのです。毎日、見ているため、見えなくなっています。ムダは価値のないものではありません。ムダは石油などと同じ貴重な資源であると私は考えています。過去の日本の生産販売活動の中で、たくさんのムダが会社の中に埋没したのです。

日本は、1950年ごろから30年程度、極めて高い成長を経験しています。ベビーブームで若い労働者が豊富であり、安いモノづくりが可能であったため、短期間で世界の工場と言われるようになりました。手先が器用な上に勤勉で頑張り、さらにOJTにより多くの若者を仕事をしながら育成し、小集団活動で品質や生産性向上の活動を行ったためでした。

1980年代になると、企業が蓄えた利益をロボットなどの合理化投資を行ったので、さらに生産性を上げることができました。増産が実現し、さらに利益も上げることができました。私は生産技術を担当していましたので、驚くほどのスピードで工場が自動化していったのを思い出します。アッという間に工場から人がいなくなり、機械が生産するようになったのです。この時代では、国民誰もが、日本の成功を疑わなかったと思います。

しかし、この時代に日本には大量のムダが眠ったと私は考えています。大量生産では、大量のムダを生むのです。1991年のバブル崩壊後、大きく変化することになりました。国内需要が低迷し、大量生産できる製品が激減しました。海外に大量に販売できる製品は、安い労働力と為替リスク回避のために、アセアンや中国などの生産拠点を移したのです。

国内の工場では、大規模な投資を行った自動化ラインで、いくら熱心に頑張っても、小ロットの生産に対しては、生産性を満足レベルに保つことができませんでした。大変化を感じることのできた会社では、高額投資を行った自動化ラインを泣く泣く廃棄し、小ロットに適したラインに生産方式を変更した現場もありました。でも、多くの会社は根本的な対策を行わないまま、現在に至っている感じがします。大量生産のムダが、そのまま眠ってしまったのです。

この大量のムダを、どのように活用すれば良いのでしょうか?
第6話 ムダを価値に変えるために
このムダは、簡単に見えないのがやっかいです。私が、会社にお邪魔して工場見学を行うと、どうして? という疑問を感じることが多々あります。質問すると、まともに回答してくれるので、ますますやっかいです。ほとんど言い訳のような回答ですが… 慣れと時間が、ムダを認識する感度を悪くさせるのです。

このムダを見つけることが重要なのですが、埋もれたムダは簡単には見つけられません。ムダを認識できなければ、改善を行うことができないからです。特に、会社がもうかっていると、どうしてムダを見つける必要があるのか? 反対に意見されてしまいます。今は良いかもしれませんが、いつまでも大丈夫でしょうか?

私は、無理してムダを見つけることをお勧めしていません。ムダだけを見つけようとすると、ムダが悪者になってしまうからです。トヨタ生産方式では「ムダ取り」と呼び、ムダを無くす活動を行っていますが、私は「ムダ取り」という言葉は好きではありません。「ムダを価値に変えよう」と言っています。価値と言うのは、付加価値のことで、ひと言でいうと、お客様がお金を出していただけることです。

最初にムダを見つけるのではなく、現場改善を行いながらムダを見つける眼を養うことが重要です。ムダというより、仕事のやりにくいところを見つける方が簡単です。でも、やりにくいところといっても、今の作業に慣れているので、やりにくいところは無いと言う人も多くおられるのです。そこで、有効なのが5S活動です。どんな会社でも、一度は5S活動を行ったことがあると思います。

現場改善は5S活動から行うことが、もっとも重要です。いきなり改善からスタートすると、ほとんどのケースでは、活動が沈滞~消滅してしまいます。5S活動ですら、継続するのは難しいからです。私は、令和の変化の時代に適した、もっとも楽に楽しく、しかも、継続できる5S活動の方法を研究しています。
第7話 5S活動の歴史
意外なことに、5S活動の歴史については、あまり伝えられていません。トヨタ自動車がトヨタ生産方式の活動の中で5S活動を行ったのが最初ではないかと言われていますが、いつ頃から、活動を行ったのかという記録はないようです。

NHKの連続テレビ小説「ひよっこ」の52回に、トランジスタ工場の風景が出てきます。工場の壁にたくさんの掲示があるのですが、その中に「清掃清潔」とあります。時は、東京オリンピックの昭和39年(1964年)ですが、この頃は3Sとか5Sとは言っていなかったのかも知れません。

私は、5S活動の推進形態を、昭和も含めた20世紀、平成、そして、令和の5S活動に3区分しています。それぞれの時代によって推進方法に特徴があることに気がつきました。5S活動は、20世紀にトヨタ自動車など大企業でスタートしているようです。

トヨタ自動車では、専門の推進部隊があったので、しつけが不要だったらしく、4Sと呼んでいます。20世紀の5S活動とは、5Sや改善を行う専門部隊があり、その組織が自ら推進する形を指しています。今でもそのスタイルで行っている会社もあります。20世紀の推進方法が悪いのではなく、中小企業では5S活動の専門部隊を持つ余裕がない点が問題なのです。

書店に行くと、たくさんの5S活動の本が並んでいます。ほとんどは、20世紀の5S活動の内容のものが多いようです。その特徴は、本を開いてみると最初に、整理として赤札作戦のことが書かれていることです。赤札作戦は、不要物を見つける手法ですが、とてつもないパワーが必要なので、専門部隊がいないとできないのです。専門部隊のいない、現場主導の中小企業の5S活動で赤札作戦を行うと、ほとんどの場合、ここで5S活動が消滅してしまいます。

1991年のバブル崩壊で、5S活動の推進方法も少し変化しました。
それが、平成の5S活動です。
第8話 平成の5S活動とは?
専門部隊のいない中小企業が5S活動を行う場合、外部の指導者にお願いするケースを見かけることが多くなりました。私はその推進形態を、平成の5S活動と区分しています。1991年のバブル崩壊後、平成になった頃から見かけるようになったと記憶しているからです。

主に、現場改善のコンサルタントにお願いする事例が多いようです。数社がチームになって、外部のコンサルタントにお願いするケースもあったようです。コンサルタント費用が高額なので、費用を数社で割り勘にするためだったと聞いています。これが、後に5S活動の継続に効果を発揮することになるのですが、別の章で詳しく説明したいと思います。

コンサルタントは、トヨタ自動車はじめ大手企業の5S活動や現場改善の専門部隊出身の人が多かったようです。自分たちが成果を出した20世紀の5S活動の手順を指導したのです。中小企業側にやや余裕があり、社内で指導できる人材を育成できた会社はうまくいったようですが、契約期間が終了しコンサルが来なくなると5S活動が衰退してしまうケースを多く見ています。

社長自らが、5S活動をしっかりと学び、コンサル代わりに率先垂範で5S活動を行った会社もあります。何しろ社長が指導する訳ですから、抜群に良い5S活動を展開されています。今では、見学費用を徴収して工場見学を行っている会社もある位です。5S活動をビジネスにするまで極めると素晴らしいのですが、ここまでできた会社は、数えるほどしかないのも現実です。

5S活動が全員活動と言われますが、その通りだと思います。社長が率先して行えば全員活動は可能なのですが、社員が推進する場合では極めて難しいのも現実です。私は、最低でも組織人員の20%の参加が必要だと言っています。一見、低い数字のように感じますが、それでも簡単には実現できません。「5S委員にすれば簡単」という人もいますが、任期の間、我慢するだけで自主的に推進できるようになる人は、なかなかいないのです。

それらを改善したのが、私が名付けた「令和の5S活動」です。どのようなものなのでしょうか?
第9話 令和の5S活動とは?
あくまでも私の定義によるものですが、20世紀、平成の5S活動に対して、「令和の5S活動」について説明します。決して、どの推進方法が優れているということではなくて、その会社に合った推進方法であるのかを判断する基準であり、それぞれの推進方法の特徴を生かすことが重要です。

私はずっと、「何故、5S活動が継続できないのか?」について考えてきました。その中で、5S活動の歴史を調べた時に、その原因の一つが5S活動の生い立ちにあることに気がついたのです。ひと言で言うと「5S活動の主体をどこに置くかと」いうことが、もっとも重要だということです。20世紀型では専門部隊、平成型ではコンサルタントや経営者に当たります。

専門部隊設置の余裕のない中小企業では、20世紀型の5S活動では難しいのです。平成型では外部の先生、つまり、コンサルタントにお願いするため、費用も含めて経営者の覚悟が重要になります。コンサルに任せきりでは、コンサルが来なくなると活動は必ず停滞するのです。社長の率先垂範が必須なのですが、社長は令和の変化対応に忙しいため、方針にぶれが生じると5S活動がおかしくなる事例を、いやというほど見てきました。社長が無類の5S好きかスーパーマンの場合は大丈夫かも知れませんが…

令和の5S活動の最大の特徴は、現場主導による5S活動を指します。「現場主導で5S活動を推進できる」と言っても、実に難しい取り組みになります。現場に5S活動の指導者を育成し、現場メンバーが考えて、現場メンバーで実践できるようになるイメージです。経営者の覚悟が重要であることは平成型と同じで、主要メンバーが推進方法を理解すれば自社だけでも推進することは可能です。

活動のスタート時は外部から指導する方が早く進みますが、コンサルタントではなく私はコーチが望ましいと言っています。コンサルとコーチの違いは、答えを言うか、言わないかです。私が行っているコーチでは、ヒントは言うが、5S活動の具体的な指示はしません。現場メンバーで一緒に、改善案を考えるようにもっていきます。時間はかかりますが、繰り返し行うことにより、確実に現場メンバーだけでできるようになっていきます。

現場メンバーが進める時に重要となる「3つのキーワード」があります。楽に進めるために重要な内容です。
第10話 令和の5S活動から現場改善の「3つのキーワード」とは?
私は、5S活動や現場改善を行う場合に、「3つのキーワード」の実践が重要であると言っています。これは、私の体験から生み出された内容で、生産性向上、つまり働き方改革の実現のためには、極めて有効であると考えています。時間とパワーの少ない現代で楽に楽しく進めるために、絞りに絞った5S活動と現場改善の切り口です。公式風に書くと次のようになります。

 やめる × まねる × 変える = 生産性向上(働き方改革)

3つのキーワードの頭文字を取って「やま変(へん)」とも呼んでいます。この「やま変」の内容を説明します。

◆「やめる」とは、価値を生まないことをやめることです。
 勇気を出してやめてみましょう。特に問題は発生しないものです。
 「やめるとXXになる」という都市伝説に縛られていませんか?
 やめることが、もっとも大きな改善になります。
 例えば、使わない資料の作成や手書きのメモなどは、即座にやめましょう。

◆「まねる」とは、他に良いものがあれば、即座にまねるということです。
 まねることが、もっとも早く5S活動や改善ができる方法です。
 一からスタート時テイル時間はないのです。
 まねるのは、カッコ悪いと思っていませんか?
 もっと良くなって、他にまねてもらえば良いのです。

◆「変える」とは、改善を行うことです。
 お金をかねないで、知恵を出して改善を行い、仕事をやり易くすることです。
 改善は自分のために行います。
 みんなで考え、みんなで変えてみることが重要です。
 継続的に行えば、びっくりする位、仕事が楽になります。

5S活動を通して「やめる」「まねる」「変える」が実践して欲しいのです。ここまで出来れば、5Sレベルから改善レベルにレベルアップしています。楽に楽しく、多くのムダを価値に変え、令和を乗り切って欲しいと願っています。
第11話 令和の5S活動の楽に楽しい進め方
コンサルタントのような先生が5S活動の指導を行うと、どうしても5S推進者が先生にお伺いをたてるようになります。コンサルタントの先生は団塊世代の方が多く、日本を自分の手で作ってきたという大きな自信を持っておられます。そのためか具体的な指示をされる方が多く、5S推進者が先生の指示を待つようになってしまいます。

改善活動が上手くいって、偉い先生に褒められるとモチベーションが上がるので悪くはないのですが、褒められた内容ばかりに集中してしまうようです。例えば、掲示物が好きな先生の場合は、掲示の改善を実施すると掲示物を褒めますが、しばらくすると現場が掲示だらけになってしまうのです。活動内容が偏ってしまって、本当に仕事がやりにくいところの改善ができていないのを、よく見かけました。

私は、現場メンバー主導で推進できる「楽に楽しく進める3S活動」の進め方をずっと考え、実際に現場で実践を行ってきました。ここで、3S活動と言ったのも重要な点です。5S活動は、3Sと2Sに分けて活動することが継続できる秘訣なのです。3S活動は現場メンバーが現場で行うこと、2S活動はスタッフや裏方が活動を継続できるように仕掛けを行うこと、というイメージです。2Sについては、後の章で説明します。

3S活動には楽に進めることのできる順番があります。よく、整理整頓と言われるので、すぐに整頓を行っているのをよく見かけます。中には事務局がせっせとラベルを貼っている会社があります。一見するとキレイなのですが、残念ながら、これでは現場主導の活動も継続的活動も望めません。

そんな現場で、事務局のメンバーに、どうして事務局が貼っているのか質問すると「現場が忙しいので代わりに貼っている。そうしないと5S活動が進まない」と答えがかえってきました。現場が納得していない位置にラベルを貼っても、現場メンバーはそこには置かないのです。使いやすい位置に置くからです。

ラベルとモノが違っていたら、私は現場メンバーの推進であるかを疑うようにしています。現場メンバーが推進しないと継続できないことを確信しているからです。

次に、3Sを楽に楽しく推進できる方法を説明します。
第12話 3S活動は整理、清掃、整列、整頓の順が楽です
現場メンバーが、もっとも楽に楽しく進めることができる3S活動の推進方法を紹介します。もちろん、どんな方法で進めても構わないのですが、この手順が最小のパワーで進めることができることを、実践の中から確信しました。一般的な手順と少し変えており、次のような順番です。

整理 ⇒ 清掃 ⇒ 整列 ⇒ 整頓

最初の整理は同じです。整理がもっとも重要で、整理、つまり、不要なモノを捨てなければ、5S活動も現場改善も、絶対に上手くいきません。整理をしっかり行えば、50%、いえ、70%の達成であると言えます。不要なモノを捨てるとその下は汚れているので、清掃を行うのが自然の流れです。初期清掃という感じで、最初は、整理と清掃を繰り返して徹底的に行うことが、作業を楽にする秘訣です。

現場に不要なモノが無くなってくると、置く位置を決める整頓の段階に入りますが、一気に整頓を行わず、整列を行った上で、整頓を行うのが定着するために有効です。整列とはモノの最適な置き場を見つけることです。見栄えだけでなく、本当に使いやすい位置を見つけることが重要なのです。つまり、作業のしやすい位置を見つけることです。ここまで来ると、5S活動から改善のレベルになっています。

使いやすい位置を見つけるのは簡単だと思いますが、実は、なかなか難しいのです。それは、慣れや熟練がじゃまをするからです。遠くに置かれていたモノを近くに置くと作業は早くなりますが、ほとんどの場合、作業をする人にとっては使いにくくなるのです。それは身体が作業を覚えているからです。

慣れるには、3日から1週間は必要です。そこで、整列では仮に置く位置を決め、作業を行いながらベストポジションを見つけていきます。位置を決めるのでラベルが必要ですが、整列の段階では仮止めテープの上に手書きで十分です。仮止めテープは、養生テープやマスキングテープと呼ばれるもので、糊が残らないので簡単に貼りかえができます。ラベルに時間をかけないことがポイントです。

一度、位置を決めても、もっと良い位置が見つかれば仮止めテープのラベルを貼りかえて欲しいのです。作業を行いながらベストポジションを見つけることができたら、整頓として正式なラベルに交換します。もっとも作業しやすい位置になっているので、確実に生産性が向上していいます。

この活動を現場のみんなで行って欲しいのです。次に、その手順を説明します。
第13話 3S活動を現場のみんなで行いましょう
この3Sの活動を、現場で一緒に作業しているメンバーみんなで行って欲しいのです。事務所だったら、同じ机の島のメンバーという感じです。最初に、現場のみんなで現場のチェックを行い、仕事のやりにくいところを見つけます。5S的に良いとか、見栄えを気にするのではなく、作業のやり易さが判断基準です。使わないモノや資料が積まれていると、作業はやりにくくなります。作業がやり易くなると、必ず、見栄えも良くなるので見栄えの良し悪しの心配は不要です。

この現場チェックは、大人数では難しいので、5人程度がもっとも活動しやすいでしょう。人数が多い場合はグループに分けて、いくつかの場所を同時にチェックすれば良いでしょう。次のような順番で行うと、もっとも楽に楽しく進めることができます。私は、この活動を「改善ツアー」と呼んでいます。

1. チェックするエリアを決める。
  例えば、製造現場だったらライン1本、事務所だったらこの机の島とか、
  あまり欲張らない方が良い
2. 時間を決めて現場のみんなでチェックを行う。
  例えば、このラインを10分とか短時間が良い
3.決めた時間内にチェックを行い、良い点と問題点をメモする。
  チェック時は改善案を考えない。メンバー同士でディスカッションも行わない
4.チェックが終わったらメンバーで、良い点と問題点を共有する
  見つけた点を一人ずつ発表し、ホワイトボードや大きな紙に書いていくと分かりやすい
5.問題点の中で重要な点をメンバーで相談して決める
  目安として問題点を10件以上見つけ、重要点を参加人数分(例えば5件)が望ましい
6.重要な問題点の改善案をみんなで考え、一人一件のイメージ(イラスト)を作成する
  問題点だけでなく、良い点をもっと良くする改善案があれば素晴らしい

改善案のイメージまでできると、あとは実施するだけです。ここまでで、30分もあればできます。最大でも1時間までで行いましょう。例えば5件の改善案がまとまれば、実施する順番を決めて一つずつ、メンバーみんなで実践していってください。みんなで、できるところから改善を行うことがポイントです。

この改善ツアーで、何がよくなるのでしょうか?
第14話 改善ツアーで何が良くなるのか
改善ツアーには、次のようなメリットがあります。
・みんなで決めて、みんなで守る
・活動が継続できる
・新たなスキルを持つ人が現れる

もっとも重要なことは、「みんなで決めて、みんなで守る」ことです。改善を行うということは、作業手順や置き場所などのルールを変えることになります。ルールを守らなければ、元に戻ってしまいます。みんなで相談して決めたルールなので守れますね。ルールが悪ければ、みんなで相談してルールを変えても構いません。守れないような難しいルールではダメなのです。

自分たちでルールを決めても良いことに、はじめて気づくメンバーもいると思います。ルールとは、すでに決められたルールを守ることだと信じている人が多いからです。もちろん、一人で勝手に決めてはいけません。現場の皆さんで相談して、みんなで決めることが必須です。

ルールを変えるということは、仕事のやり方を変えることです。仕事は教えられた通りに行うべきだと考えていますが、教えられたやり方の中にムダがあれば、時間もパワーもムダになります。皆さんで相談して、ムダであるのか判断して、ムダを価値のある動作に変えて欲しいのです。その際、品質や機能に関係する手順は決して変えてはいけないので、注意をしてください。

この改善ツアーを、月に1回、最短でも6ヶ月間は続けて欲しいのです。すると、活動が継続できるようになります。できれば月に2回行うと、飛躍的に現場が変わっていきます。毎回、チェックする場所を変えて行うと、変化がどんどん広がっていくので、継続しやすくなります。

改善ツアーを続けていると、新たなスキルを持つ人が生まれるケースがあります。仕事では目立たない人が、良い改善アイデアをどんどん出してくれるのです。改善活動で自信を持つと、仕事もできるようになるケースもあり、私は嬉しく思います。

もちろん、改善ツアーにはデメリットもあります。
・最初は表面的な問題しか見えない
・チーム間にバラツキがでる
・活動に慣れが生じる

どうしても、最初は表面的にすぐに見える問題点しか指摘できません。いくつかのチームで改善ツアーを行うと、必ずバラツキが生じます。しかし継続することにより、だんだんと本質的な問題を見つけられるようになり高位平準化していくことを、多くの実践活動を通して経験しています。

反対に、継続すると慣れが生まれはじめ、改善ツアーをこなし仕事のように行う場面を何度も見ています。少しずつレベルアップできるようにするサポートを、実践メンバー以外の第三者が行うと、改善ツアーが効果的に継続できることが多くなります。これが2Sの活動です。

継続のための清潔としつけの2Sの活動を考えてみます。
第15話 清潔・しつけの2Sで継続できる
5Sの清潔としつけは、各社でその理解にバラツキがあることに気がつきました。食品メーカーで、清潔を衛生の内容ととらえ、5S活動の中で衛生を行っている会社があり、驚いたことを思い出します。食品業界では衛生管理は必須ですから、あくまでも業務として行うべきです。しつけを教育ととらえて、5S活動の中で教育を行っている会社もありました。教育、つまり、人材育成は会社の生命線ですから、やはり業務として行うべきです。

5S活動での意味は、一般的な意味とは全く違っています。
・清潔は、整理・清掃・整頓(整列)の3Sをずっと維持すること
・しつけは、みんなで決めてみんなで守ること

一般的な意味とは全く違うのは、私はこのように想像しました。日本で最初にスタートしたと言われているトヨタ自動車では、3Sからスタートしましたが、3Sの定着が重要であることに気がつき、4番目のSを探しました。たぶん、辞書などを見て「清潔」を見つけ、かなり無理があるけれども、3Sの定着の意味に使ったのではないかと想像しています。5S活動の「たぶんこうだったんじゃないか劇場」でした。

トヨタ自動車には、しっかりした教育制度があるので、しつけはなかったようです。後から他の誰かが、しつけを追加したと想像しています。そのため、しつけの定義もバラツキが大きいのです。本来の意味である親が子供に行う躾として理解されている会社もありましたが、「決められたことをみんなで守る」と理解されている会社が多いようです。

「決められたこと」とは誰が決めるのでしょうか? 5S活動の事務局が決めることが多いでしょう。中には社長自らが決めていた会社もありました。こうなると、学校の校則のように守らなければならないルールになってしまうのです。これでは、やらされ感ばかりになってしまい、守らなくなってしまいます。

そこで、私は「みんなで決めてみんなで守る」と定義しています。現場や事務所の同じ場所で一緒に仕事を行っているみんなで、みんなのルールを決めるのが、もっとも自然だと思います。すると、5S事務局から「ルールがバラつく」とおしかりを受けます。でも、同じルールである必要がありますか? 違う作業をしているのから、当然、ルールも違ってくると思います。現場と事務所では、同じルールで行う方が、効率が悪いでしょう。それよりも、みんなで決めたルールなのだから、みんなで守ることが重要だと考えています。

この清潔としつけの考え方が、5S活動を継続できるようにするポイントだと考えています。さらに、5S活動を停めてしまう「5S活動のムダ」について考えていきましょう。
第16話 5S活動のムダとは?
専門部隊やコンサルタントが推進する5S活動の特徴があります。ひと言でいうと、チェックシートと報告会です。専門部隊やコンサルは専門家なので無理なく行えるのですが、これを現場メンバーに要求すると、かなり大きな負荷になってしまうのです。チェック実施日や報告会が近づくと、精神的にも落ち着かなくなる状態をイヤというほど見てきました。私は一時的にでも休止して欲しいと、経営者や5S事務局にお願いしています。

チェックシートは、チェック項目を決めて現場確認を行うものです。採点をして順位をつけて、表彰を行っている会社もあります。経営者や5S事務局は満足されていますが、現場には大きな負担になります。現場メンバーと話しをしていると、こんな会話を聞きます。
「トラブルで現場に在庫が増えたので、一時的に隠そう」
「どうして、あの工程よりウチの点数が低いのか?」

つまり、正しく現場を評価できないのです。あくまでも、チェックする瞬間の状態の評価になってしまいます。チェックシートは5S活動のスタート時の意識付けには有効なのですが、活動のレベルが上がってくると点数の変化が小さくなります。1点や2点の差で順位をつけても、あまり意味がありません。

さらに、もっとも大きな問題点は「改善を停めてしまう」ことなのです。チェック項目が全てできるようになると、現場メンバーは「もう出来た」と安心して活動を停めてしまうのです。新しい改善を行っても、チェック項目にはないので、点数が上がらないからです。私は5Sレベルが上がってきたら、一時的にでも、チェックシートを休止するようにお願いしています。

報告会は、経営者や上司にとっては分かりやすいのですが、現場メンバーの大きな負担になります。発表の得意な人のいる現場は良いのですが、いない現場では苦痛になります。こんな会話をよく聞きます。
「今月の報告会で発表する改善案がまだできていない」
「この改善はとっておいて、来月の発表に使おう」

つまり、報告会のために改善の調整を行うようになるのです。改善が重荷になる場合や、運良くうまく進んだら改善内容のプールを行うようになるのです。みんなで考えた改善を、どんどん行って欲しいのですが、報告会に合わせて進められるようになってしまっている会社を、たくさん見てきました。

どのように進めるのが良いのでしょうか? 楽に楽しく進める5S活動のポイントを紹介したいと思います。
第17話 令和の5S活動のポイント
現場主導で行う5S活動は、どのような点に注意すべきでしょうか? もっとも大事なのは、現場メンバーが5S活動を行いたいと思ってくれることです。それを阻害するのが「やらされ感」です。5S活動の中の清潔としつけの2Sは、この「やらされ感」との闘いなのです。

経営者が5S活動を行うという覚悟は、令和の5S活動でも極めて重要です。令和の5S活動はボトムアップ活動を目指すのですが、経営者の覚悟なしに、ボトムアップ活動をスタートできないからです。

5S活動のスタートにあたり悩むのが、モデル職場で行うか全職場一緒に進めるか、ということです。私は即座に「全職場で行いましょう」と答えます。全職場というのは、技術、品質管理や営業を含みます。可能であれば人事などのスタッフの参加も望ましいです。

各職場から代表者を出してもらいますが、スタート時の人選がとても重要です。次期の昇格者などが適任です。全職場の代表者に対して、経営者から5S活動の開始を宣言してもらい、活動がスタートします。キックオフを大々的に行う会社がありますが、経営者が思いを話ししてもらえれば十分です。セレモニーも大事ですが、経営者はセレモニーだけでなく、毎回の活動にも少しでも参加して欲しいものです。

月に1~2回、勉強+実践活動を全職場の代表者と一緒に行います。勉強は長くても30分までで行い、5S活動の目的や用語をメンバーみんなで学びます。職場に戻った後で、代表者に自分の現場メンバーに学んだことを伝えてもらいます。勉強の主な目的は、5S活動特有の言葉の理解です。整理だけでも、片づけと思っている人もいれば、キレイにすることと理解している人もいます。これでは、活動がバラバラになってしまいます。ひと言で言えば「整理とは捨てること」と共通認識することが重要なのです。

実践活動は、第13話で説明した現場確認~問題点の把握~改善案の立案を行う「改善ツアー」の活動を行います。改善の実施まで出来ないので、次回までに現場メンバーで行うようにお願いします。改善実施には時間が必要なので、経営者に時間の配慮をお願いしています。

まずはお金を使わないで、改善を行うことが重要です。お金を使わなければ、元に戻してもゼロに戻るだけです。お金を使ってしまうと上手く以下なった時、マイナスになってしまい負担になるからです。「お金を使わず知恵を出して」と現場メンバーにお願いしています。

この活動は早ければ5~6回ぐらいで、5S活動から改善レベルになってきます。どういうことでしょうか?
第18話 5S活動から現場改善へ
現場メンバーは、整理~清掃~整列・整頓の3S活動を繰り返し行います。すると、何回も行っているうちに現場改善のレベルに向上します。早ければ4回目、遅くても6回目には、改善レベルに達します。月に1回の活動でも、およそ半年後のイメージです。

それは、作業のベストポジションを見つける整列を行った上で、見える化である整頓により、必ず仕事がやりやすくなるからです。つまり、現場改善の入り口なのです。でも、作業のベストポジションを見つける活動を行わないで、単なるラベル貼りの整頓ではダメであることは言うまでもありません。

現場改善には、IE(インダストリアルエンジニアリング)やTPS(トヨタ生産方式)という手法があります。大きな成果を出せるのですが、かなり難しく大きなパワーが必要なのが難点です。そのような手法を意識しなくても改善を行うことができます。第10話で説明した「やま変」つまり「やめる~まねる~変える」活動を行うことにより、現場改善が実践できるのです。実は「やま変」には、IE手法の中の「動作経済の原則」を含んでいるからです。

毎日の仕事の中で、たくさんの仕事をしています。一つ一つの作業を確認してみて、やりにくいところを見つけましょう。第13話で説明した改善ツアーを活用します。改善ツアーを行う際、最初は5Sの切り口でチェックしますが、だんだんレベルが上がってくるので、作業の行いにくいところをみんなでチェックできるようになります。例えば、こんな内容です。

部品の位置が遠いので、手を伸ばして取っている
工具が机の下に置かれているので、しゃがんで取っている
作業台が高いので作業しにくい
部品のストックが遠くの棚に置かれているので、歩いて取りに行く
コピー機が部屋の隅に置かれているので遠い

こんな悩みは、どこの職場にもあると思います。でも「そんなもの」とあきらめていませんか? 部品の位置だけで改善できるのであれば、すぐに改善できます。改善しない方が、もったいないと思います。棚の位置の変更であれば、数名のメンバーで動かせば良いのです。とにかく、仕事のやりにくいところを見つけて、少しずつやり易くすれば、どんどん生産性を向上することができます。レベルが上がってきたら、IEなどの手法を勉強すると鬼に金棒になります。

改善を行う時に気をつけたいのが「全体最適」です。どういうことなのでしょうか?
第19話 部分最適と全体最適とは
改善を行う時に注意して欲しいのが「全体最適」で改善案を考えるということです。仕事を行っている全体が良くなるように改善を行うことで、反対は「部分最適」です。モノづくりの場合、いくつかの工程を順番に通って生産を行います。工程の中でもっとも生産能力の低い工程を、ボトルネック工程といいます。ボトルは瓶、ネックは首ですが、もっとも細い部分を指します。

いくつもの工程がある場合、ボトルネック工程以外の工程を改善しても、生産性を向上することはできません。そのライン全体の生産性はボトルネック工程で決まってしまうからです。考えてみれば当たり前のことですが、どうしても改善のしやすい工程を行ってしまう場合が多いのです。改善のやりやすい工程がボトルネック工程であれば良いのですが、残念ながらほとんどのケースではそうではないのです。改善しにくい工程であるために、ボトルネック工程になっているからです。

ボトルネック工程を、どのように見つければいいのでしょうか? 厳密には各工程の生産能力を調べるのですが、現場の皆さんは雰囲気で感じていると思います。工程前にいつも仕掛在庫があったり、設備が頻繁に故障したり、たくさんの人が配置されていたりします。少しずつ改善ツアーを行って、作業のやりにくいところを見つけていくと、ボトルネック工程が見えてきます。ボトルネック工程を改善し生産性が向上すると、他の工程がボトルネックになります。残念ながら改善には終わりはないのです。

なかなか、全体最適という見方にならないのは、20世紀のモノづくりや業務のやり方が部分最適だったからです。部分最適の例としては、コンベアによる生産、セル生産方式、設備の稼動率重視などです。コンベアラインやセル単体で改善を行って、高い生産性を実現しました。しかしコンベアラインやセル間で、助け合いを行うなど融通することが難しいのです。設備での生産の場合、稼動率を上げるために、品種切替の回数を減らして単一の品種について長時間生産を行い高い稼働率を上げてきました。販売が変化すると、たちまち大きな不良在庫を作ってしまったのです。

現在の大きな変化を求められる生産やサービスは、部分最適で対応することは難しいでしょう。部分最適の時代の切り口は「生産量」だったのです。作ればすべて売れた良き時代の話しです。1年の間に、モデルが2つも3つも変わる製品では、全体最適で対応すべきです。

では、全体最適とはどのようなことでしょうか?(続く)
第20話 全体最適の切り口は時間
全体最適の切り口は、量ではなく時間です。時間は「リードタイム」と考えています。リードタイムとは、生産をスタートしてからお客様に納入するまでの期間を指します。一般的にはモノづくりで使用する言葉ですが、開発リードタイムや受注リードタイムなど、スタッフの仕事でも時間を切り口にすべきだと考えています。

一つの品種を早くつくるためには、どうしたら良いでしょうか? もちろん生産スピードを上げれば可能ですが、大きな投資が必要です。投資ゼロで実現すためには、少ない数を作れば良いのです。10,000個生産するのと100個では、確実に100個の方が早く生産できるのです。非製造業であれば、 一つのサービスを早く行うと考えると良いでしょう。

大量生産の時代には、多くつくることばかり考えていました。変化の時代では、少なくつくって、いかに利益を上げるかと考えるべきです。価値観の多様化により、お客様は多くの品ぞろえを求めているのですから、それに対応できないと生き残ることはできません。しかし、モノづくりの現場からは待ったがかかります。少量の生産では、生産コストが上がってしまうと言うのです。間違いではありませんが、大量生産時代に作られた計算式で計算しているだけなのです。

大量生産時代は、いかに大量の生産ができるかということが評価基準でした。個別原価や設備稼動率を重視していました。今の時代は「いかに多くの品種、多くのサービスが一日でできるか?」ということを評価基準にすべきです。大量生産時代の道具で、それを実現することは困難な場合が多いのです。もっと小回りのきく方法に変えていくことが重要です。

モノを歩いて運ぶ、帳票に手書きで記載する、仕掛品を棚に入れる、モノを探す、などの付加価値を生まない作業を行っている余裕はまったくありません。毎日、変化する多くの小口注文に対応する必要があるのです。私は、ムダがあるということは、まだ、改善できる余地があると考え、少しホッとします。どんどん、ムダを価値のある仕事に変えて、変化の時代を乗り切って欲しいのです。これが、第2話で述べた「減収増益」のシナリオです。

どのようにムダを価値のある仕事に変えれば良いのでしょうか?
第21話 価値のある仕事とは?
ここまでの話で、仕事一つひとつの作業のムダを価値に変える改善活動が、仕事をやり易くすることに大きな効果を発揮することを理解していただけたと思います。これらの改善活動により、確実に現場の生産性が上がります。でも、これだけでは大きな効果を見込むことができません。さらに、仕事のムダから仕事自体のムダに視点を広げて欲しいのです。

多くの作業が集まったものが仕事です。改善によって作業をなくしていきますが、一つでも作業が残れば、その仕事は継続されることになります。残った仕事は、本当に必要なのでしょうか? 仕事自体をやめる決定を現場メンバーで行うことは難しいと思います。かならず管理者や経営者が判断する必要があります。

例えば、手書きの帳票があるとします。現場メンバーの改善では、記入項目を減らす、個別チェックを一括チェックに変えるなどのアイデアが出されるでしょう。でも重要なのは、その帳票の役割を確認することです。時間をかけてチェックすることにより、ミスが防げているのか? 品質向上や納期管理できているのか? などの効果を再確認して欲しいのです。もし効果が少ないと判断した場合、ITをうまく活用するなどして、帳票自体を積極的に廃止すべきです。言いかえると、紙というモノから、データという活用できる情報に変えることです。

さらに、帳票を保管している場合です。ダンボール箱に大量の帳票を保管しているのをよく見かけます。何故、保管しているのかを問うと、会社の基準のため、品質のトレサビリティ(追跡可能性)のため、などの回答がかえってきます。使っているのかと問うと「めったに使わない」という回答が多いようです。めったに使わないことのために、棚という重要な空間を占有しているのです。もし問題が発生したら「こんなに多くのダンボールから必要な数枚の帳票を探さなければ…」と想像すると、気が滅入ります。

このような価値の少ない保管は、すぐにやめるべきです。手書きの帳票は単なる紙であり、データや情報ではありません。帳票に書かれた内容をデータ化して、はじめて価値が生まれます。そこで、この帳票をどうするのかと問うと、スキャナーしてデジタルデータにしますと答えがかえってきます。単なる電子データ化の認識です。

帳票が大量にあると、とてつもなく大きなパワーと大容量のサーバーが必要になるので、お勧めできません。2次元バーコードやIOTの活用を十分に検討した上で、計画的にデジタル化に運用を切り替えることをお勧めします。しばらくは二つの運用が発生しますが、将来的に確実にデジタルに一本化できるので、乗り切って欲しいものです。

ここまで進むと経営革新と言えます。どんどん進めるためには、どうすればよいのでしょうか?
第22話 現場改善から経営革新へ
5S活動から現場改善の活動を継続的に推進すると、多くの仕事のムダを発見できます。しかし、仕事のムダをやめる判断を、現場で行うのは難しいのです。やめる判断は、経営者でないとできないと考えています。経営者は報告会で聞くのではなく、現場メンバーが行っている改善活動や現場の状態を継続的に観察して、何が問題なのかをしっかりと掴んで欲しいのです。

大きな変化の時代では、経営者は極めて忙しいと思います。でも、価値を生み出してくれるのは現場しかありません。その現場が、ムダだらけの状態では、変化の荒波を乗り切ることは出来ません。何十年と続けてきた仕事自体をやめることは、大きな勇気が必要でしょう。すぐに決定できなければ、期間限定でやめる試行を行ってみることも有効です。

これが経営革新の活動であり、経営革新は言いかえると「仕事の5S」だと考えています。しっかりと、仕事の5S、特に整理(やめる)と整頓(見える化)を行って、会社の継続を実現して欲しいのです。令和の荒波を乗り切れるのは、大きくて重いタンカーのような船ではなくて、どこでも自由に身軽に行ける何艘ものボートなのです。必要なところに四方八方、走って行くことが可能です。しっかりと経営者が覚悟を決めて、会社全体に発信して欲しいのです。この経営革新の活動は、ボトムアップでは決してスタートできません。

活動をスタートさせると、予想以上に時間がかかると感じことでしょう。長い年月で溜まったムダですから、簡単には見つかりません。しっかりとムダを認識して、一つ一つ価値に変えていくのです。時には経営者が先にムダを見つけることもあると思います。経営者の方が現場を広く客観的に見ることができるからです。そんな時には、現場メンバーに対して、決して口を出さないようにして欲しいのです。経営者の発言の方向だけに活動が集中してしまい、全体最適の活動を阻害してしまうからです。

経営者には、是非、夢を語って欲しいものです。その夢に向かって活動を継続すると、大きな人のパワーが出ると考えています。いかに人のパワーを出せるかが成功のキーになります。改善レベルでは、大きな投資はしないことが原則ですが、若干の費用があれば改善がとてもやりやすくなります。「口を出さす、若干の改善費用を出してください」と私は経営者にお願いしています。これが推進メンバーのパワーアップの原動力になります。

経営者は他社を見る機会が多いので、現場メンバーにも他社を見るチャンスをつくって欲しいのです。現場メンバーが本気で活動しだすと、すごく大きな力になります。じっくりと現場リーダーを育てて任せていけば、スリムな経営が実現できると確信しています。

5S活動から現場改善で生産性向上を実現し、会社の皆さんと共に、令和という荒波を乗り切って欲しいと強く願っています。
あとがき 会社も人もスリムが一番です
思い出してみると、平成はバブルの好景気でスタートしたものの、すぐにバブルが崩壊しました。令和もスタート直後に、新型コロナ・ウイルスにより大打撃を受けました。バブル崩壊により、日本経済は失われた20年、いえ、失われた30年を経験することになりました。今までに経験したことのない低成長の時代になってしまったのです。

令和のコロナは、いったいどうなるのでしょうか? でも、色々なことが分かったと感じます。例えば、マスクが市場からなくなってしまいましたが、同時にティッシュペーパーやトイレットペーパーもなくなりました。これは、誤った判断による買い急ぎが原因で、あっという間に売り場から消えてしまいました。予想以上に市中の在庫は少なく、物流もギリギリの能力で行われていたことが分かりました。

もう一つショックだったのは、営業自粛により中小企業や街の食堂や商店が廃業に追いやられたことです。家賃や人件費が予想以上に経営負担が大きかったことが分かりました。自粛要請が出されると、すぐに解雇や雇い止めが出されたのはショックでした。数か月分の運転資金だけで経営をしていたのでしょうか? 経営効率を高めるために生産性向上の活動が、残念ながらできていなかったのではないでしょうか?

良いことも分かりました。テレワークが効率的な仕事もあることです。自粛の有無にかかわらず、活用すべきです。でも、わが社の仕事では無理というケースもあり、仕事の良し悪しでなく仕事の特性が明確になったと思います。テレワークできない仕事のAI化することも難しいため、今後も続ける必要があり、生産性向上の活動が効果を発揮すると考えられます。

そこで、この機会にしっかりと自社の生産性について考え、改善を行って欲しいと切望します。20世紀に発生したムダが会社の至るところにへばりつき、平成の沈滞感の中でそのまま放置されてしまったのです。令和になってすぐに、新型コロナがこれらのムダの存在を辛口に教えてくれたと感じます。しっかりと経営のムダに気づいて欲しいものです。

そこで、ムダを見える化しムダを価値に変える改善活動を、できる限り小さなパワーで楽に楽しく行う方法を本書でまとめてみました。是非、ポスト・コロナの今、経営者がこの生産性向上プロジェクトを決意し、会社全体に発信して欲しいのです。会社も人も、スリムなのが一番です。皆さまの素晴らしい生産性向上の活動を期待しています。

ここまで、お読みいただき、本当に感謝しています。
   
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